ディスラー 逃げない人たち
自慢するつもりはない。
むしろ、胸を張れる話でもない。
気づけば、警察の世話になった回数は二十を超えていた。
若かった、と言えばそれまでだが、実際、無茶をしていた時期があった。
境界線を踏み越えることに、あまり躊躇がなかった頃の話だ。
取調室で、警察官と雑談のような会話をしたことがある。
彼は、ふっと息を吐くように言った。
「プライベートでは、僕らも結構ディスられますよ」
意外でもあり、妙に納得もした。
制服を脱げば、彼らもただの人間だ。
「だからね」と彼は続けた。
「ディスられたからって、言い返そうとしないでください」
それは説教ではなく、忠告だった。
その流れで、ふと聞いてみた。
どうして、命がけの仕事ができるんですか、と。
彼は少し考えてから答えた。
一つは、自分が生まれ育った街を守りたいという気持ち。
もう一つは、研修だと言った。
現場を想定した、実戦に近い訓練。
何度も、何度も繰り返す。
考える暇がなくなるまで。
「いざその場に立つと、逃げる余裕がないんです」
逃げない、というより、
逃げるという選択肢が消えるのだ。
目の前に状況があり、
体が先に動く。
心は、そこに張り付く。
医者も同じだと思った。
患者を前にした瞬間、
「治さない」という選択肢は消える。
そこには、覚悟というより、
職業として染み込んだ姿勢がある。
逃げない人たちは、
勇敢なのではない。
ただ、その場に立ち続けることを
何度も練習してきただけだ。
警察の話は、まだ尽きない。
思い出すたび、
自分がどれだけ軽い場所で
逃げるか逃げないかを考えていたかに気づかされる。
今日は、ここまでにしておこう。
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