恋活戦争 「まあまあの距離」


 恋愛というものは、だいたいイケメンと美女がやるものだ。

 少なくとも、物語の中では。


 書店に並ぶ小説も、漫画も、ドラマも、基本はそうだ。

 昔、パタリロ!のような例外もあったが、あれは最初から笑わせるための世界だった。

 本気の恋愛とは、少し違う場所にある。


 彼女たちは、それを読んで育つ。

 恋に憧れ、物語の中に入り込み、現実よりも少し眩しい世界を楽しむ。

 それは逃避ではなく、予習のようなものだ。


 だが現実は、そう単純ではない。


 金。

 浮気。

 信用。


 どれも、物語には都合よく扱われるが、現実では容赦なく重い。

 「信用できる男」を見つけるという作業は、恋よりも労働に近い。


 イケメンなら安心、というわけでもない。

 むしろ逆だ。

 選択肢が多い男ほど、疑いも増える。


 それでも、

 一度くらいはイケメンと恋をしてみたい。

 そんな願望が、心のどこかに芽生えるのは自然なことだった。


 彼は、その世界に属していない。

 鏡を見れば、それは一目で分かる。

 自分は選ばれる側ではなく、努力する側だ。


 もしイケメンに生まれていたら、

 人生はもう少し簡単だったのだろうか。

 「貢いであげようか」

 そんな言葉を、冗談でも向けられることがあったのかもしれない。


 だが現実は違う。

 だから彼は、働く。

 考える。

 まあまあ、懸命に。


 生活について考えると、結論は一つに近づく。

 共働きがいい。


 一人で生きる分には困らない。

 だが、誰かを丸ごと背負えるほどの余裕はない。

 それは弱さではなく、計算だ。


 家事は、難しくない。

 やれば終わる。

 問題は、誰がやるか、ではない。

 どちらが疲れているか、だ。


 彼の知る夫婦は、家事の分担を決めていなかった。

 決めなくても、回っていた。

 余裕のある方が手を出し、しんどい方が休む。

 それが自然にできていた。


 愛とは、契約ではなく、流れなのだろう。


 イケメンでも、美女でもない。

 だが、現実を一緒に引き受けられる関係。

 それは、物語にはなりにくいが、生活には向いている。


 彼はコーヒーを飲み干し、

 窓の外を走るバスを眺めた。


 まあまあの人生だ。

 だが、悪くはない。


 そう思えたことが、

 その日の、いちばんの収穫だった。


コメント

このブログの人気の投稿

恋活戦争 吹いた男と、健全な女たち

桜町のプリンス 1話 即興アマチュアピアニスト