ディスラー 天才キング
目の前を、男が通り過ぎた。
すれ違いざま、聞こえるように一言だけ落としていく。
「バーガーキング」
それだけだった。
説明も、文脈もない。
ただの単語。
だが、投げ方で分かる。
これは会話ではない。
ディスリーワードだ。
僕は反射的に言い返した。
考える前に、口が動いていた。
「天才キングだ」
男は振り返らなかった。
何も言い返してこなかった。
それで十分だった。
「バーガーキング」という言葉には、
たぶん「馬鹿の王様」という含みがあるのだろう。
子どもじみているが、
そういう安直さこそ、ディスラーらしい。
でも、僕は自分の頭脳を信じている。
自分で言うのもなんだが、
わりと本気でそう思っている。
将来、売れるつもりでいる。
大きな仕事をするつもりでいる。
今は何も実現していない。
それでも、言い切っている。
それは、あの男と同じだ。
モンキー・D・ルフィは言う。
「俺は海賊王になる男だ」
まだなっていない。
でも、言い切る。
その言い切りが、世界を前に進める。
僕にも、そのメンタルはある。
即興ピアノでも同じだ。
音高は考えない。
メロディも考えない。
ただ、指を動かす。
それなのに、人は言う。
「癒される綺麗なメロディですね」
「なんていう曲ですか?」
曲名なんて、ない。
考えて弾いていないのだから。
それでも音楽になる。
それでも何かが伝わる。
だったら、
自分を天才だと思っていても、
別にいいじゃないか。
売れる前から、
自分を信じていた人間は、
たくさんいる。
あとになって、
「あれはアホだったな」と分かるかもしれない。
それでもいい。
夢があるほうが、
ディスリーワードを投げるより、
ずっとマシだ。
あの男は、
「バーガーキング」と言って通り過ぎた。
僕は、
「天才キング」と言って立ち止まらなかった。
それだけの違いだ。
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