ディスラー かわいい
「かわいい。」
その言葉が落ちた瞬間、
僕はすぐに理解した。
これは好意じゃない。
評価でもない。
ましてや、愛嬌を認めた言葉でもない。
――男として未熟だ
――一人前じゃない
――対等に扱う存在じゃない
そう、勝手に決めつけているだけだ。
相手は、こちらの人生も、
積み重ねてきた時間も知らない。
それでも、「かわいい。」の一言で、
男としての位置づけを終わらせる。
便利な言葉だと思う。
否定される心配がない。
怒らせたら、「褒めただけ」と逃げられる。
でも、内側では、はっきり線を引いている。
――私は上
――あなたは下
若さや立場を盾にして、
その線を一方的に引く。
僕は、カップの縁に指をかけたまま、
その構図を眺めていた。
腹は立たなかった。
むしろ、少し冷めた。
この言葉を使う人は、
男の成熟を、外側の記号でしか見ていない。
年齢。
雰囲気。
余裕があるかどうかの“フリ”。
本当の成熟は、
相手を測ろうとしないところにあるのに。
「かわいい。」
そう言った彼女の目は、
安心していた。
自分のほうが上だと、
確認できたからだ。
でも、その安心は、
相手を下に置かないと成立しないものだった。
僕は何も言わなかった。
言い返す必要もなかった。
男としての成熟は、
他人の口から決められるものじゃない。
ましてや、
一言のラベルで終わるほど、
軽いものでもない。
「かわいい。」
その言葉が示していたのは、
僕の未熟さじゃない。
彼女の、判断の浅さだった。
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