ディスラー 反射の差

 

そのディスラーは、僕の前に立っていた。

距離は近くも遠くもない。

声が、こちらに届く距離だ。


そして、決まりきった言葉を吐いた。

罵倒。

内容はどうでもいい。

言い回しに、工夫はなかった。


僕は、その言葉を聞いて、

ほとんど間を置かずに、言い返した。


考えたわけじゃない。

準備していたわけでもない。

身体が先に反応した。


次の瞬間、

ディスラーは黙った。


一拍。

二拍。


そして、何も言わずに、その場を離れた。

振り返らず、言い返さず、

ただ歩いていった。


ああ、これか、と思った。


ディスラーは、

罵倒するのは得意だ。

だが、それは「投げる」行為であって、

「受けて返す」行為ではない。


彼らの言葉は、

定型文だ。

考えずに出せる代わりに、

崩されたときの次がない。


返り討ちに遭うと、

頭が止まる。


反射神経の問題じゃない。

構造の問題だ。


僕のほうが、

身体が先に動いた。

言葉が、即座に返った。


それだけで、

勝敗は決まっていた。


ディスラーは、

ディスられることを想定していない。

自分が上にいる前提でしか、

言葉を組み立てていない。


だから、

上下が崩れた瞬間、

何も言えなくなる。


逃げる。

それしか残らない。


彼らが好むのは、

一方通行の優位だ。

双方向のやり取りではない。


だから、

ディスラーの罵倒は、

いつも似ている。


そして、

返されると、弱い。


僕もディスりながら話している。

それは否定しない。


だが、

咄嗟に返すこと。

場に反応すること。

相手の想定外に立つこと。


それをやらなければ、

ディスラーには対抗できない。


徹底抗戦、

というほど大げさなものじゃない。


ただ、

逃げない。

止まらない。

言葉を返す。


それだけだ。


ディスラーは去っていった。

僕は、そこに残った。


その違いが、

すべてだった。


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