デスラー 街角のマウント

 

 街を歩いていると、やたらと目につく若いカップルがいる。

 肩を抱き、身体を寄せ、まるで世界に二人しか存在しないかのように、必要以上にイチャついている。


 ――家でやればいいじゃないか。

 そう思うのは、たぶん僕だけじゃない。


 彼らは愛し合っている、というより、見せつけている。

 抱き合う動作の一つひとつが、通行人に向けたメッセージのように感じられる。


 「どうせ彼女いないだろ?」

 「俺たちはこんなに楽しいぞ?」


 言葉にすれば、そんな声が聞こえてきそうだ。

 あれは幸福の共有じゃない。

 マウントだ。

 誰かの心を踏み台にして、自分たちの位置を確認するための行為。


 ディスりアクション、と呼ぶのが一番しっくりくる。


 僕自身は、正直なところ、そう簡単にマウントを取られるタイプじゃない。

 ただ、世の中にはいるだろう。

 何気なく視界に入ったその光景に、胸をえぐられる人が。

 「自分には何もない」と、静かに傷つく人が。


 そういう意味では、ずいぶん性格の悪い遊びだ。


 もっとも、あの手のカップルに、深い愛があるようには見えない。

 他人を意識している時点で、愛はもう外側に漏れている。

 内側で完結していない証拠だ。


 だから、羨ましいかと聞かれれば、別にそうでもない。

 ……と言いたいところだが、正直に言えば、

 まあ、少しだけは羨ましい。


 ほんの一瞬だけ。

 それ以上でも、それ以下でもない。


 街は今日も、誰かの幸福と、誰かの劣等感が交差する場所だ。

 そして僕は、そのどちらにも深く踏み込まず、ただ歩いていく。


 マウントを避けるように。

 それでも、人間であることを忘れないように。


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