観音菩薩像 5話 観音菩薩像

 俺は労働基準監督官、今日は非番だ。久しぶりに高校のときの同級生に電話するか。

「もしもし」

「よう」

「元気か?」

「ああ、どうした」

俺は今回の件の顛末を話した。

「なるほど、正木って奴はバカだな」

「そうだなバカだ。だが、あいつと電話で話してる時、なぜかおまえの顔が頭にうかんでな」

「おいおい、俺は労働組合のプロだ。ちゃんと戦略、戦術を持ってやってるさ」

「だろうな。今度また飲みに行こう」

「だな、積もる話もあるし」

「じゃあな」

「じゃあ」

俺は久しぶりに公園へ行った。きちんと2列に並んだ10人くらいの女子高生が走っている。

「イチニ、イチニ」

「おい、もっと大きな声を出せ」

ジャージ姿の体育教師らしき男が叫ぶ。

「ハイ、イチニ、イチニ」

「もっとだ」

「ハイ、イチニ、イチニ」

俺は思った。こうやって規則正しく行動するように訓練されて、上のやつに物も言えないような若者たちが育っていくのかなぁと。それからしばらくして、公園の敷地内にある美術館に行った。古美術展か、入ってみるか。木彫りの観音菩薩像、、、古いものだが見事だ。説明書きをみると、これは権力が民衆に慈悲を与えるために作ったものらしい。だが、この威圧感はなんだ。まさか民衆を抑えつけるためのものじゃないだろうな。いや待てよ、この目俺の目に似てる。射抜くような鋭さ。なるほど、権力をバックに悪を威圧する、俺たち労働基準監督官と観音菩薩は似た者同士ってわけだ。今回の件では悪いやつはいなかったが、いつも俺たちが目を光らせてるってことだな。俺は薄暗い公園内のバス停へと歩いた。ほんのりと青い空に月が綺麗だった。

コメント

このブログの人気の投稿

恋活戦争 吹いた男と、健全な女たち

恋活戦争 「まあまあの距離」

桜町のプリンス 1話 即興アマチュアピアニスト