観音菩薩像 4話 労基署動く

 プルルル、あ、電話だ。

「もしもし、正木さんですか?」

「はい、どなたですか?」

「闇の男ですよ。フフ」

え、マジか、録音しなくちゃ。

「ちょっと待って下さい」

「録音するんですか?」

あ、当然こいつは僕の記事を読んでるはず、バレてるな。でもやっとかないと。録音アプリを起動して、赤いボタンをタップする。

「いえいえ、何か?」

「あの記事はひどい」

「そうでしょうか」

「私が悪者扱いだ。私にやましいところはありませんよ。私はただ、不用意な記事で仮に、うな蔵が潰れた場合、本社や全国にある店で働く人たちが職を失うことが心配で、ああいう行動をとっただけです。それに1つの会社が潰れると、取引のある会社も損害を受ける。それに、これが一番の心配なんですが、うな蔵の客が残念に思うでしょう」

「なるほど」

こいつ案外悪いやつじゃないのかな。

「あなたのように、たった1人の店長を助けたいという、安っぽいヒューマニズムとは違う」

「1人の人間を助けたいと思うのが、安っぽいですかね」

「フフ、あなたらしい言い様だ」

「あなた何で、うな蔵にそんなに肩入れするんですか?」

「私はあそこの、ひつまぶしが好きでね。あのうまさとスピードで1100円でしょう」

「へ〜、僕もです。しかし、たったそれだけの理由で。ずいぶん酔狂な人だ」

「酔狂という点ではあなたも同様だ」

「ハハ、わかりました。僕も、うな蔵の名前に傷がつく様なことはしたくないです。でも記事は書きますよ」

「そうですか、あくまで手を引く気はないと」

「はい、連載は後1話で締めようかと思ってます」

「わかりました。また読ませていただきます。では」

「はい、どうも」

物腰は柔らかいが押しの強いタイプ、結構いいひとだし。でも前回の話は削除できないぞ。僕にも読者がいるんだ。そう簡単にはいかないさ。ちょっと、うな蔵に行ってみるか。

「やあ」

「あ、正木さん」

「店長さん、その後どうですか?」

「労働基準監督署の人が店に来たんです」

「え、そうなんですか」

「でも、もう本社のスーパーバイザーさんのおかげで労働条件は改善されたんで、いろいろ聞かれましたが帰られました」

「へ〜」

「いろいろ有り難うございました」

「いえ、僕のやったことは余計なおせっかいでしたね」

「そんなことはないです。心配してくださって」

「ハハ、あなたの頑張ってる姿を見たら、誰でも応援したくなりますよ」

「そう言っていただけると嬉しいです」

「じゃあ、ひつまぶし」

「はい」

そうか、労基署が動いたか。なんだかんだ言っても、やっぱ働く人たちの味方だもんな。見直したぞ。さてさてあと1話か、、、

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