観音菩薩像 3話 闇の男

 僕はライター、正木。うな蔵へいってその後の様子を聞いてみるか。

「やあ」

「あ、正木さん」

「どう? その後」

「はい、全然楽になりました。本社のスーパーバイザーさんがいらっしゃって、指導を受けました。あたし店の運営に不慣れなところがあって、自分でしょいこんでたんですね。バイトの子にうなぎを焼いてもらうとか、初歩的なことを教わりました。今は8時間働いて帰ってますし、週休2日になりました。本社や本社に掛け合ってくださったオーナーさん、それから正木さんには感謝してます。

「そう、それはよかった。ひつまぶしね」

「はい」

「やっぱりうまい。この会社って、なかなかやるよな」

僕がひつまぶしを食べ終わってトレイを返すと、ラフな格好の知らない男に呼び止められた。

「ちょっといいですか?」

「はあ、どなたですか?」

「今回あなたがSNSに投稿なさった、うな蔵に関する記事を読ませていただいたものです」

「それはどうも」

「あなたに忠告しておきたい事があって」

「はあ」

「あそこの席に座りましょう」

僕たちは小さなテーブルに、向かい合って座った。僕から男に切り出した。

「まず、あなた、どういう立場の人なんですか?」

「いえね、あなたの記事に不審な点がある1人の人間です。それ以上のことは言えません」

あやしい。だがオーナーには副回線で電話してるし、店長が本社に僕のことを話すはずはない。オーナーや本社がらみの人間じゃないことはハッキリしてる。ただのアンチか?

「不審な点と言いますと?」

「まず、あなたがちゃんと取材してこの記事を書いているのかということです。いいですか。うな蔵は年商30億の会社です。もしいい加減なことを書いてイメージに傷がついたとします。1割の損害賠償で3億だ」

男は薄笑いを浮かべた。ピンと来た。脅されている。圧力をかけられている。しかし僕は意外と落ち着いていた。このあいだから少し場数を踏んだと言えるのだろうか。

「それは僕に記事を削除しろっていうことですか?」

「いえ、そうは言ってません」

どういうことだ。圧力をかけておいて削除はしないでいいとは。まあ削除させたことがバレたら圧力をかけたという事実は残るが。

「じゃあ、記事を書き直せと」

「そうも言ってません」

なるほど、書き直す前に、SNSを日付入りのスクショで残しておけば、それも証拠になる。

「じゃあ、どうしろと」

「一切この件から手を引いた方が無難ですよ、と言う事です」

「そうは行きません。僕の仕事ですから」

「あなたの記事を読むと、あなたはオーナーを脅しているじゃありませんか。違法だという認識もある。訴えらますよ」

「脅したという事実はありません。あれはフィクションですから。っていうかサイエンス・フィクションかな」

「それはどういう意味ですか?」

「つまり事実とフィクションでできてるってことです」

「たとえフィクションだとしても、なんでも書いていいというわけじゃない。脅してなくても、相手が脅されたと解釈すれば、結果的に脅したことになりませんか?」

「じゃあ、お聞きしますけど、あなたは僕に圧力をかけてる」

「いえ、そんなつもりはないです」

「あなたが今おっしゃった通り、僕が圧力をかけられていると感じていれば、そしてこの件から手を引けば、結果的に圧力をかけたことになりませんか?」

「それは、あくまであなたの主観ですから。あなたの記事は主観的なんですよ。とても客観的とは言えない」

「僕はこの件の本質をとらえているつもりです。もし間違っている点があれば言ってください」

「、、、なんであなたは第3者なのにこの件に首を突っ込むんですか? それが理解できない」

「おそらく、あなたとは価値観が違うんでしょう。理解できないのはしょうがない」

「そうですね。とにかくこの件から手を引くことをお勧めします。それじゃあ、私はこれで」

一体誰だ。こいつは厄介な事になったぞ。この記事を書き続ければ、今後同じことが起きるかもしれない。しかもこの男だけとは限らないし。社会保険労務士の江田さんに相談した方がいいな。

「もしもし」

「はい、どうしました?」

「厄介な事に巻き込まれそうなんですよ」

男のことを話した。

「あなたの単独行動は良くない。こういう時はチームで対処することです。この件は憲法に保証された、言論、表現の自由に抵触するものです。いわば言論弾圧だ。私の管轄じゃない。知り合いの弁護士を紹介しますよ。それに相手が福岡の人間とは限らない。あなたの知り合いの新聞社の役員の方に、ちゃんと話して、国会議員を紹介してもらうことです、複数の政党のね。それから、これはまずないですが、万が一相手が暴力に訴えてくる時のために警察に話した方がいいです。その男の似顔絵を描いて提出するように。顔は覚えていますか?」

「はい、はっきりと。絵は得意なんですよ」

「それはいい。それからあなたの違法行為については、警察にフィクションだと言えばいい。それにあなたが仮に訴えられたとしても起訴されることは絶対にありえません。あくまで善意の行動だということは子供でもわかる。その点あなたに圧力をかけてきた男は違う」

「そうですね。あの男をやっつけちゃいましょう」

「その息です。あ、大事なことを忘れてた。会話は録音してあるんでしょうね」

「いえ」

「あちゃ〜、それじゃ起訴は無理だ。これからは不審な人物との会話は録音するようにね。電話がかかってきた場合も必ず録音してください」

「はい」

「今回の起訴は無理でも、今後のことがありますから、弁護士と国会議員は必ず味方につけてください」

「はい、色々ありがとうございます」

さすが江田さん、頼りになる。これで大丈夫。また圧力かけてこないかな、今度こそ、、、

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